狛犬概説        梅田義彦著  「神道の思想」

<狛犬の製作>
 狛犬が果たしていつ頃から製作せられたかは明らかではないが、平安朝にできた「江戸次第」・「大神宮諸雑事記」や、また「皇代記」という書に、皇大神宮(内宮)やその別宮荒祭宮へ、御神宝として金銀の獅子狛犬あるいは銀の獅子(あるいは獅子形)を奉ったことが見えるのを始め、平安朝時代より鎌倉時代にかけて盛んに作られ、そのころのものに優秀なものが多く、後世濫作せられるに至っては見るべきものは稀である。

<狛犬の用途・位置>
 狛犬は、実際に用いられている例からいうと、(1)簾・几帳・扉の押え、(2)神宝、(3)社頭の装飾及び守護の三つ位に分かれ、(1)(2)は殿内、(3)は殿外に、それぞれ相対して置かれる。
 これを古い文献に遡って調べると、鬼魅すなわち不浄や悪魔を避ける守護の意味と、物を押える鎮子の用を兼ねて猛獣の像を作って用いたのに発し、もと宮中にて用いられ、推して神社殿舎の内外に叙上の目的により用いられるに至ったものと思われる。
 なお、社前に狛犬を置くについては、支那(=中国)の宮門や廟墓の前に神人霊獣の像を建てる慣習をも参酌したものかといわれる。印度の寺院に獅子形を置く風がわが国の寺院に伝わり、それが神社に及んだとする説はおそらく非であろう。

<狛犬の姿勢>
 狛犬は、後脚を折り伏せ、前足を立てて蹲踞すなわちうずくまっている形を取り、頭は正面又は神前と反対の側に向くのを原則とする。応々巖石に攀じてこれを昇降するがごときものもあるが、これは近世に始まった風で感心できない。

<狛犬の角>
 狛犬の角については、(1)双方ともにあるもの、(2)いずれか一方にのみあるもの、(3)双方ともになきもの、の三種あり。普通には、獅子と狛犬の一対と見立てたときは、狛犬の方が一角を有しているとせられるが、にわかにいずれが正しいとも決し難く、要するにいずれか一方が、額上中央に一角を有するのを普通とするようである。

<狛犬の口>
 狛犬の口については、(1)双方とも口を開くもの、(2)いずれか一方が口を開くもの、(3)双方ともにこれを閉じているもの、の三種があり、それぞれ論があるが、いずれが正しいとも決し難い。開口のものは、玉を含める故だといい、またはこれを阿(ア)音を表し、閉じているのは吽(ウン)を表すとて、仏教的に解釈を施す説もある。

<狛犬の容貌>
 狛犬は、邪気を扞(フセ)ぎ、門戸を衛るなどの性質上、またその動物としての本来の性質よりするも、栄華物語(日陰蔓)に「御帳のそばの獅子狛犬の顔つきも恐ろしげなり」とあるように、勇猛厳粛、あたりを払うような容貌たるは当然のこととされる。

<狛犬の大きさ>
 狛犬の大きさは、その姿勢上、高さと縦・横の幅とによって表わされるが、その大きさは種々であって、もとより一定しないが、高さ・幅それぞれ二・三尺ずつのものが最も普通である。

<狛犬の材料>
 狛犬は、、石製(玉製を含む)が最も多く、木製・金属製がこれに亜(ツ)ぎ、愛知県の郷社深川神社の狛犬(中略)のごとく、陶製のものもある(この狛犬はいずれも形に逸(スグ)れている)。
 石材では花崗岩が、金属では金銅・青銅が多く、鉄もある。いにしえ、禁中の御帳台に置かれたものは金銅製であったという。

<狛犬の色彩>
 狛犬は、石材なら石材、木材なら木材、金属ならその金属の素地そのままのものもあり、種々の色彩を施したものもある。中には、極彩色にして絢爛目を奪うようなものもある。(中略) 古い狛犬では、色彩剥落、わずかに処々にその名残を留めているものもまた応々見かけるところである。

<狛犬左右の異同>
 狛犬左右の異同は、主として口・角についていわれるべきことであるが、それらは既述の別項を参照されたい。
 なお、(1)双方ともこれを獅子とするもの、(2)一方を獅子、一方を犬とするもの、(3)双方ともにこれを犬とするもの(犬の牡牝とする説もあり)、(4)一方を麒麟、一方を獅子とするもの、(5)一方を◯(ジ)とし、一方を獅子とするものなどあるが、(4)の説はあまり有力でない。
 ちなみに、一方を獅子、一方を狛犬とするにあっては、左を獅子(色は黄、口を開く)とし、右を狛犬(色は白、口を閉じ、一角あり)とするのを通説とする。

<狛犬の在所>
 狛犬は、これを(1)殿内に置くものと、(2)殿外に置くものとに分けられる。殿内では、内陣・外陣、大床などがあり、殿外ならば、神門や、地上に適当に台座を設けてその上に置くのをと普通とする。いずれにしても正中を挟んで左右両側に対称的に置かれねばならぬ(姿勢の項参看)。